参道のトガ並木は映画「散り椿」のロケ地にもなり、メディアでも度々取り上げられているため、ここを歩く人は多いが、定期的に坐禅会が開かれていたり、住職のスケジュールさえ合えば個別に坐禅体験ができることはあまり知られていない。また、曹洞宗の寺院でありながら開創に立山信仰の神である立山権現が関わる逸話が残るこの地域特有の宗教観を、立山権現を祀る社殿や、初代住職ときこりに扮した立山権現が共に坐禅を組んだとされる「坐禅石」が鎮座する森の風景から感じることができる。「坐禅では立ち止まって自分に向き合い、開山林の散策では苔むした森の美しさや風の香り、フカフカとした地面を踏む感触などに意識が向き、この2つの体験で色々と余計なものが剥がれて素の自分に戻っていけるような感覚になりました」という堀さんの言葉が示すように、せわしない現代の暮らしに「静」を与えてくれる場所といえる。
剱岳登山の早月ルートの玄関口馬場島へ向かう途中にある伊折地区。かつては90世帯以上が暮らし、小・中学校の分校があり、獅子舞も盛んで(現在は保存会が継続)活気ある集落でしたが、現在居住者はなくこの地の出身者が営む食堂・山菜加工場の「劔いおりの郷」が1軒あるのみ。しかし当時の暮らしの面影や豊かな自然の魅力を全身で感じることができる散策ルートが整備されている事はあまり知られていない。湧水の沢沿いを行く「せせらぎ小径」や早月川の堰堤が作り出す滝越しの剱岳など表情豊か。「標高が高いせいか普段見かけない花が咲いていたり、野葡萄の実の色彩に目を奪われたり、そんな小さな発見もあれば、沢沿いの静かな木漏れ日の道から抜けた河原の白とエメラルドグリーンの世界、そして目の前の滝の大迫力。なんか小さなことがどうでもよくなるような開放感でした」こんなにも雄大で表情豊かな散歩道がここにはある。