音楽家仲間たちを
恋しくさせる
独特の日本的風景






ー酒井さんは度々共演者やご友人に上市を案内されているとのことですが、どんなところに行かれますか?

酒井さん(以下酒井)これまで色々行きましたよ。大岩も行きますし眼目の寺(眼目山立山寺)や花の家、あと、下田の金山(跡)にも行ったことがあります。

あとこれは冬の晴れた夜で月が明るいという条件が揃った時だけなんですけど、和合の千坊橋から見る剱岳。

月明かりが山の雪に反射して夜空に浮かび上がったようになって、もう息を飲む美しさです!いろんな場所から眺めて見ましたがそこが一番綺麗に見えます。

ー実際ゲストに喜ばれるところってどこですか?

酒井 中でもよく案内している場所が中村集落の早月川から早乙女岳を望む風景。これを外国人はとっても気に入ってくれるんです。今も親戚が暮らしているのですが、その暮らしの風景も含めて気に入ってくれます。そこから剱岳は見えないのですが、不思議とそこにみんな日本を感じるんですね。

ー特に印象に残っているゲストの反応などあればお聞かせください。

酒井 過去「ふるさとコンサート」にも出演してくれたエジプト出身の歌い手・師岡カリーマさんという、現在アラビア語の講師や東京新聞でのコラム連載などをしている方なんですが、彼女を中村集落に連れて行った時に「ここの風景は、ヨーロッパアルプスにも、ロッキー山脈にもない、またチベットとも違う、日本だーって感じさせる独特の風景ですね」って言ったんです。
まだ日本に「インバウンド」なんて言葉が広まっていないような時期でしたけど、彼女は「外国人は始めは観光地に行くかもしれないけど、そのうち観光地化されていない、その土地の暮らし文化をちゃんと体験できる場所を求めるようになる。
もしこの風景の中で、この暮らしを体験できて宿泊できるような場所があったらここはすごく人気の場所になる」って。

ー観光のために造られたものより、その土地の本質的な魅力に触れたいという需要が高まってくるということですね。

酒井 そうですね。国籍によって違いはありますが、看板だらけの観光地はリアルじゃないと思うみたいです。
旅慣れた外国人はハリボテと本物をちゃんと見分けることができますから。

ーなるほど。そう言う価値観なんですね。確かに近年は体験型消費が高まってきているというデータも出てきていますよね。

酒井 イスラエル人ヴィオラ奏者のタラちゃん(タラシャンスキーさん)も「この土地の人がどういう暮らしをしてきたか、昔の人は何を食べていたのか、それを体験したい」とか「川があるのに川魚を出す店はないのかな?」なんて言ってました。
彼は観光名所的なものより、現在進行形で暮らしや文化と一体になっているものじゃないと興味を示さないんです。
ただ、大岩の不動明王像は食い入るように見ていましたけど!

ー史跡としての価値だけじゃなくて、千年以上地域に根付くところに現在進行形の魅力を感じられたんですかね?

酒井 そうかもしれませんね。
そういう価値観で見つめ直していくと上市町ってまだしっかり残っているところもあって、本当にいいところなんですよね。
実際僕が連れてきた人、特に外国人や外国に住んだ経験のある人はみんな「富山」ではなく「上市」にまた行きたいって言ってくれるようになりました。
きっと彼らの琴線に触れる何かがあるんですよね。

ーヒントがたくさん散りばめられたお話ありがとうございました!
 あ、酒井さんは鉄道もお好きなんですよね?

酒井 そうです! 僕はいつも「帰りは富山駅まで送るけど行きは地鉄で来てください」って言います。あの揺れを体験してもらわないと! もちろん景色も!